収穫|一次SS

「良いか、まずこの犬を退けろ」
「え、大丈夫だよ。抜かないよ、そんな前時代的な」
「じゃなくて! ヨダレ! 食いもんじゃねえんだよ! お前こいつに餌やってんのかよ!」
「あげてるよ、毎日手作りのご飯あげてるよ。僕より良いご飯食べてるよ」
「哀れだな人間め、おい掘るな!」
「しょーがないじゃん。元々ここはベスの散歩道なんだもん。後から勝手に君が生えたんだろ」
「勝手って何だ! そもそもこの辺りはだな! ……ああ、骨、良かったな見つかってな……いいよ見せなくて……」

まあ見るからにのどかな田舎道だ。見渡す限りの草原には転々と牛や羊の影があり、なだらかな丘からは昼を告げる鐘が響いた。そののどかな田舎道の傍らに、ぶち模様の犬と散歩袋を携えた青年がしゃがみこんでいる。彼らが囲んでいるのは頭から双葉を生やしたマンドレイクだ。きんきんとした高い声で怒鳴り散らしては、犬に舐められている。そういえば前にあげたゴム人形がこんな形だったかなぁと、のんきに青年は思っている。

「あと、僕は人間じゃないよ。アッシュって言うんだ、よろしくね」
「よろしくしねえ! 下等な人間ごときが! 大体、俺たちマンドレイクは大陸が未だ二つに分かれる前から」
「ベス、うんこ大丈夫?」
「話を止めるな、排泄も促すな」

そもそもだな、と無理やり仕切り直して続けるマンドレイクの話は、二つに分かれた大陸間の戦争の話から、いかにマンドレイク達が不遇の道を歩み、しかしながらその魔力がどれほどの人間どもを恐怖に陥れてきたのかと、いかにも得意気に続いていた。ちなみにベスはそこらを自由に探索しはじめたし、アッシュはと言えば持ってきていた水筒でお茶を飲みながらベスの腹事情を気にかけていた。

「ベス、ほんとにうんこ大丈夫?」
「聞けェ!」
「だって最近便秘気味なんだよベス。心配でさあ……」
「ああもう抜け! 俺を抜いてその声で死ね!」

マンドレイクが双葉を揺らしながらきんきんと怒っている。
確かにマンドレイクを引き抜く際の叫び声が生き物を死に至らしめるという話は有名だ。そのために犬が使われたことも有名だ。しかしながら、その声に生き物を殺せるほどの毒性を宿すのは、成熟したマンドレイクの中でも余程魔力を注がれて栽培されたか、毒々しいほどの魔力に富む地域でしぶとく生き残ってきた精鋭勢の話だ。今ではむしろ、意外と栽培も改良もしやすく、たくみに人語を操るその特性から、

「大体君、サンダーさんトコの畑の子でしょ。逃げてきたの?」

鑑賞できるペットとしての需要が高まりつつあった。

「まだ双葉なんだからだめだよ、途中で抜けたら成長止まっちゃうよ。ほら、帰してあげるから」

アッシュが周囲を掘り返そうとするとマンドレイクがじたばたと抵抗をはじめる。抵抗と言っても根は地中にあり、せいぜい手らしきものを振る程度だ。アッシュの脳裏に小屋に戻りたがらずに暴れるヒヨコの姿が過ぎる。

「おい! 違うぞ! 純然たる野生種だ!」
「嘘言わないの。野生種なら尚更、こんなトコに生えてるの放っておくわけにいかない」
「……ぐっ……じゃあ栽培種だよ!」
「栽培種ならおとなしく畑に帰んなね、肥料も無いんだから」

抵抗も虚しくマンドレイクは掘り起こされ、アッシュの手のひらに乗せられた。叫び声をあげないのは植木鉢からそのまま抜いたように、根回りには土がそのまま付けられているからだ。アッシュの予想通り根はまだ浅く、発芽からせいぜいまだ半年も経っていない。根先まで含めても両手でおさまる程度に小柄なマンドレイクは、いまだ抵抗するように双葉を揺らしていた。

「……帰りたくないの?」
「だから! 帰るとかじゃねえ! 俺は野生種」
「サンダーさんトコ良い土じゃない。キャベツとかすごい育つよあの土」
「俺を菜っ葉と一緒にするな」
「ベス、また骨埋めちゃうの? そうやってすぐ忘れちゃうんだからもー」
「だから聞けよ!」

指を叩きながら抗議の声をあげるマンドレイクを見ながら、アッシュが思いついた顔をした。そして満面の笑みを浮かべる。

「じゃあさ、家に来る?」
「はぁ!?」
「日当たりには自信あるし、あとでサンダーさんにも言っておくからさ」
「は! 人間ごときが俺を飼えるとでも思ってんのか? 良いか、マンドレイクの毒はな」
「三日三晩の砂糖水で抜けるってね?」

しれっと言い放つアッシュを、マンドレイクが唖然とした顔で見上げた。手に持ちながら、アッシュはにこにこと穏やかな笑顔で続ける。

「そもそもそんな毒持ってないでしょ。魔力のかけらも無いのに」
「おい、お前何でそれ」
「栽培種ってどんくらい魔力吸えるのかな。野生種なら試したことあるんだけどね」
「は、え?」
「んふふー、楽しみー。名前どうしようかなぁ、あ、本格的に烙印でいく? 魔力マシマシで入るよ」

きんきんした声が「帰る」「降ろせ」と響くものの、アッシュの足取りは実に軽やかに帰路へ向かっていた。もちろん、サンダー氏の畑ではなく、アッシュの家へ向かってだ。骨を埋め終えたベスも尻尾を振りながら続く。嬉しそうな飼い主を見上げる3つの頭から、元気の良い鳴き声がした。

ついでにこの時描いてた落書き( ˘ω˘)

お題:収穫(2個目)