フレイの昔話|鴨河SS

何も珍しいことなんてない。きっとどこにでもある、ありふれた話なんだ。
荒野人の女と、有翼人の男が出会って恋に落ちた。
日毎夜毎に逢瀬を交わし、女は男に踊りを贈り、男は女に歌を歌った。
もともと流れながら生きてきた彼らにとって、肌の色や羽根の有無なんて些細な話さ。
やがて彼らにも子どもが生まれた。
半ば諦めていたのだろうね。彼らはそれはもう喜んだ。
肌の色は母親に、髪の色は父親に似ていた。そして背には、ひとつだけ羽根があった。

混血で生まれた子のすべてがそうなのかは分からない。
でも、生まれた子がどれほど生きることが出来るのかは、彼らにも占い師にも分からなかった。
もしかしたら、とんでもなく長く生きるかもしれない。
もしかしたら、明日には居なくなるかもしれない。

母親は子どもを強く強く抱きしめて言った。

─ どちらでも良いわ、あなたが此処にあるだけで ─

父親は子どもの頭を撫でながら言った。

─ そうさ、僕らのすべてをお前に教えてあげる。僕は音楽を、君は踊りを。 ─

彼らは、子どもに『フレイリヒ』と名付けた。
音楽を愛する彼らにとって、最上級の愛情を込めた名前なんだ。
それは幸福を指し示す言葉なのだから。

意外にも、子どもはすくすく育っていった。
風邪のひとつも引かないで、けらけらといつでも笑ってたそうだよ。
時には山奥の集落で、時には湖のほとりで、彼らは歌い踊りそうして世界を流れ流れて過ごした。
彼らの生活は旅と共にあり、そこにはいつも音楽があった。
母親は子どもに鈴の鳴らし方と踊りを教えた。
父親は子どもに弦の弾き方と歌を教えた。
喜ぶこと、哀しむこと、美しいもの、醜いもの、それ故に愛しいもの。
すべて歌と踊りが教えてくれた。
……でも残念ながら、文字の読み書きまでは手が回らなかったみたい。

時折他の一座と合流しながら賑やかに街々を巡るうち、子どもは成人を迎えた。
16で良いのかな。多分そうだよね。
成人の祝いは三人だった。
祝いには新しい歌と踊りを教えてもらった。
歌と踊りはセットの寸劇仕立てのもので、英雄の旅立ちを描いたものだった。
ひとりじゃ出来ないものだから、いつか誰かを見付けなさいと。
父親と母親は笑いながらそう言って、子どもを送り出した。
晴れて子どもは世界中を歩きまわる自由を得た。

もしかしたらとんでもなく長く生きるかもしれなくて、もしかしたら真逆かもしれない。
羽根は相変わらず片っ方しか無いけれど、これは僕が父と母の子どもである証だ。
幸福を名付けられた『フレイリヒ』の証だ。
きっとどこにでも転がっているありふれた、でもこれは、僕だけの物語。

ご清聴ありがとう。
僕の話はこれでおしまい。
何だったら一人でふらふらしてた頃の話をしても良いけれど、それはまた、別の機会にね。