ささやかな未来|かもかてSS

想定
トッズ友情/レハト♂成人済 役職は特に定めていません
「ねえ、トッズ」
「はいはい、何ですか」
「トッズさ、嫁の条件って聞かれたら何て答える」
「そうねー、まず豊満な胸とー、細い腰とー、むっちりした腿とー」
「だよねー、そう書いちゃおうかなー」
「馬鹿だね、やめなさいよ」

視線を合わせないまま交わされる軽口の応酬はいつもの事で、
のんきに陶磁器を磨くトッズを横目に、僕は手紙の前で頭を抱えていた。

「まさか王城で嫁を迎える事を考えるなんて、僕の人生設計には微塵も無かったもんなあ」

羽筆を鼻と口の間に挟んで揺らす。

「レハト気張ってたもんなー。『何が何でも俺の言い分を通すんだ!』って鼻息荒かったもんなー」
「気張りすぎたよ。城内で役職貰うなんて予想外だった」

元々は何処かの小さな領地でも分けて貰って、のほほんと領主生活をしようと目論んでいたのだ。
結局のところ僕は農作業や兎鹿を育てて毛を刈るような生活が性に合っていたらしい。
そうして小さな領地でのほほんと暮らして幾年か過ぎたら、
愛らしい嫁さんを貰って、慎ましくもささやかで幸福な家庭を築く辺りまで妄想は出来ていたのに。
子どもは二人。三人でも良い。

「土の匂いが恋しい。畝とか超作りたいんだけど」
「中庭でやってきたらいいでしょ」
「あんな小奇麗な庭に手を加えたって面白くも何とも無い。
根を抜いて何度も掘り起こして柔らかくて黒い土にするのが愉しいんだよ」
「……ああ、そう……」
「それで一通り種を撒き終えた頃に可愛い嫁さんがお茶を淹れて持ってきてくれるんだ。
嫁さんは生成りのエプロンをふわふわとさせてさ、僕の顔に付いた泥を拭いてくれる訳。
僕がありがとうって言うと、少しだけ頬を赤らめて首を振る訳。
ああもう!そんな!生活が!したかった!!」
「レハトは男前に女々しいね」
「ありがとう」

全く興味の無さそうなトッズが磨いていた陶磁器をひっくり返した。
中から零れた小さく折り畳まれた紙を僕の方へ寄越す。

「まあ、ともかく目の前の事どうにかしたら。俺の人生も背負ってるんだって自覚してちょうだいよ」
「僕が背負いたいのは愛らしい嫁さんと可愛い子ども達の人生であって、ヒゲ面のおっさんの人生じゃないんだよ」
「ひどい、雇い主切ってまでレハト様に付いて差し上げたのにひどい」

わざとらしく両手を頬に当てる。どうしよう、全然可愛くない。
溜息交じりでトッズから紙片を受け取り広げれば、僕に求婚してきた貴族の経歴が細かな文字で書き連ねてあった。
予想通り、ランテ家とは数代前から折り合いが悪く、今も関係は改善されていない。

「ちょっと突付いただけでこの情報量が出るんじゃ、敵多そうだなー」
「まー、それなりの家柄になっちゃえば敵も味方も増えるもんでしょ」
「トッズはどう見てるの」
「あれ、俺に聞いちゃう」
「少なくとも僕よりはよく見えてるでしょ」

トッズは僕の手から紙片を取り上げると脇の小皿の上で燃した。

「まー、正直なトコね、手を打つなら妥当な線だと思いますよ。今のお前さん、未分化の頃より立場弱いんだから」
「リリアノの庇護は偉大だったね」
「呑気に暮らしていきたいんだったら、早々に後ろ盾付けちゃうのも手だからね」

トッズの言葉に僕は再び広げたままだった手紙の前で溜息をついた。
成人をすれば諸々のしがらみから抜け出せると考えていたのは、やっぱり浅はかだった。
明確な敵こそ居ないけれど、明確な味方もない。
後ろ盾の無い僕の足元は未だフワフワしたままだ。

手紙の文面を何度かなぞり、引き出しから新しい便箋を取り出す。
文面を書き出すと、脇からトッズが覗き込んだ。

「あれ、勿体無い。断っちゃうんだ」
「未熟者でございます故、子息をお預かり出来る自信もございませんって事で」

書き上げた短い文面を見直し、封筒に入れて閉じる。
トッズに差し出すと、小さな溜息が聞こえた。

「何」
「いいえー、まだまだ俺も安らかな日々からは遠いなって思ってさー」

トッズは頭をガリガリかくと僕から手紙を受け取り、品物の詰まった袋の中に放り込んだ。

「いずれ時期が来たら、それなりに諦めるさ」

独り言のように呟いた言葉は、きっとトッズには聞こえていただろう。
トッズは表情一つ変えず、別の品物を磨きだした。

実は一番生き生きしてるのはトッズ友情のレハ様でした。