千古の指輪|かもかてSS

想定
腹が黒い話。

◎トッズ:友情ルート中
◎レハト:未分化/一人称僕

よく晴れた中庭は緑も生い茂り、話し声は葉擦れの音に紛れる。
僕の高い笑い声だけが時折響き、端から見れば和やかな買い物そのものだろう。
僕とトッズの間には、がらくたと紙一重としか見えない品物が並べられている。
本当に、一体どういう基準で選ばれているのかも分からない程に、統一性が無い。

「こういうの何処から仕入れてくるの」
「まあ、商売柄色んな場所には行きますからね。これでも目は利く方なのよ」
「……僕にはよく分からない代物ばかりだけど」
「それはお前さんの修行が足りないんだ。モノにはね、それぞれ物語っていうものがあるんだから」

そう言いながら、トッズは商品の中に埋もれかけていた古びた指輪を取り出した。
指輪の表面を見せられるものの、
控えめにはめ込まれた石は、もう完全に色褪せてくすんでしまっていて、いよいよ値打ちものとは思えない。
僕が眉間に皺を寄せると、トッズが笑った。

「察しが悪いなー、お前さんは。
こういう石を堂々と使えるってのは、元々の持ち主は貴族様。
で、ここが面白いんだけど、大きいでしょ。
大抵指輪なんて男からの貢物って相場が決まってるんだけど、これは男向けの指輪」

試しにトッズが僕の指に指輪をはめ込む。
確かに僕には大きすぎて、親指に嵌めても直ぐに抜けてしまう。
僕の指から落ちた指輪を、今度はトッズが自分の指に嵌めこむ。
なるほど、確かにぴったりだ。

「時は分裂戦役。この王城を乗っ取る算段が駆け巡る血生臭い時代だ。
そこらは勉強してるだろうけど、国を変えるのに血が流れない訳がない。
まあ大抵流すのは、力のない平民か、血気盛んで年若い男どもなんだけど」

トッズは指に嵌めていた指輪を抜くと、恭しく布の上に置いた。

「指輪の裏の彫刻はね、これ草の蔓なんだけど、
永遠だとか、安息だとか、そういう意味が込められてる場合が多い。
戦に向かう男に、どこかの貴族の女が贈ったんだろうね。
それが此処にある時点で、その男の末路は推して知るべし、と」

僕は置かれた指輪を持ち、裏を覗き込む。
確かに、もう消えかけてはいるが草の蔓のような彫刻がぐるりと施されている。

「と、そういう悲恋めいた物語を秘めた指輪な訳さ。
それを欲しがる趣味の良し悪しはさておいて、今の平和な貴族の皆さんには受けるのよ」
「単純に渡しそこねて流れちゃった指輪なんじゃないの」

僕が言うと、トッズがいかにも残念そうな顔をした。

「俺さー、お前さんの賢いトコは好きだけどそういう夢のない事言うのはどーかと思うよ。ほんと」

それは悪うございましたね。
トッズが再び商品を並べなおした時、ふと木の葉がざわりと揺れ、数人の侍従が顔を出した。
あぶない、と僕は思わず口を噤み、侍従を見やる。
僕と目のあった侍従達は、慌てて礼をして走り去ろうとする。

「あ、」

僕の出した声に、一人が足を止め、つられるようにもう二人が足を止めた。
顔には明らかに「この忙しいのに」と書いてあるようだ。
その忙しい中、木の葉の中で盗み聞きをしていたのは一体誰だ。

「もし良かったら、一緒に選んでくれないかな」

トッズが呆れたような顔をして僕を見た。
僕は気にせず、侍従達に笑いかける。

「僕、よく分からなくて。君たちなら、良い物も見慣れてるでしょう?」

ええ、だの、まあ、だの口中で呟きながら侍従達は顔を見合わせている。
そうだ、これはあくまで、僕のひどく個人的な買い物でなければならない。
笑顔を崩さずに手で招くと、観念したのか近寄ってきた。
良かった。これ男には効かないんだよな。

「あのね、ヴァイルに何かあげようと思うんだけど、何が良いと思う?」

侍従達は意外と真剣に、トッズの商品を見回している。
時折何やらよく分からない代物を見付けては、笑い声を漏らした。
やがて侍従の一人が、筒に入った古地図を僕に差し出した。
僕は嬉しそうな顔をして、それを受け取る。
古地図か、案外好みを押さえている。油断ならないな、侍従達の情報網も。

「ありがとう、これを贈ってみるよ。
名前教えて貰える?ちゃんとヴァイルにも教えてあげなきゃ」

全員の名前を聞き終え、僕は笑顔で彼女達を見送った。
少し離れた後で、キャイキャイ言う声と共に駆け足になる。
声が完全に聞こえなくなった辺りで、僕は笑顔に攣りそうだった顔をようやく元に戻した。

「名前覚えたよね?変な噂流れたら上書きしといて」
「うわあ……寵愛者様ったらいつの間にそんな処世術身に付けちゃったの」
「身に付けたも何も、元々の性分でございますから」

僕が笑うと、トッズが呆れたように息を吐いた。

「ホント。どうしてお前さんに徴が出たのか、今納得してるよ」
「おや、こんな田舎者にどうして現れたものかと、貴族達の間じゃ随分面白い噂話の種になっているみたいだけど」

僕は木の葉越しの城へ目をやる。
貴族達から寄せられる視線には、明らかな侮蔑と、わずかばかりの同情が入り混じっていた。
未だ人脈も名声も無い僕を、判じかねるとでも言うように。

「物語、か」

ぽつりと呟いた言葉に、トッズが曖昧な返事を寄越す。
僕は目線を戻し、トッズと向かい合いように座り直した。

「トッズが先刻言っただろ。モノには物語があるのだと。
十と四年、沈黙を守り続け、今や身寄りも無い不遇の寵愛者なんて言ったら、成る程、確かにこれは面白い物語だと思わない」

くすんだ石、掠れた彫刻に心惹かれる者など居ない。
欲しがるのは、そこに秘められた語られない物語。
そして確証が無いからこそ、自由に巡らせる事が許される。

「お忘れなさんなよ。物語には結末が必要って事をさ。鳴り物入りで登場して、未完で終わった物語なんざ誰にも見向きはされない」
「その為に、トッズが居るんだろう」

僕は布に置かれた指輪を手に取り、トッズの指に嵌める。
売れ残りだろうが、本物であろうが、指輪は此処にある。
素質があろうが、結果何も残せなかろうが、僕の額に徴は刻まれた。
僕一人で、終わって堪るか。
興味を示した事を後悔するほどに、すべて覆してみせよう。

「期待してて良いよ。一番良い席から、物語の行く末を見せてあげる」

中庭を過ぎ、渡り廊下に上がった所で衣服についた木の葉と泥を落とす。
廊下の向こう側に貴族達が数人固まっているのが見えた。
どうやら彼らも僕の姿に気付いたらしい。
目を合わせるとあからさまに、これだから田舎者は、とでも言うような表情を浮かべた。
僕は作り慣れた笑みを湛え、彼らの元へ足を向けた。

友情トッズをクリアして、腹が黒く算段に満ちたレハ様に感銘を受け意気揚々と書き出したのに、
書けども書けども終わらぬ事しきり。
向いてない。多分私は腹黒いレハ様の扱いに慣れていない。