覚悟の一押し|かもかてSS

想定
◎グレオニー:愛情ルート中
◎レハト:一人称僕/未分化
レハト視点で、衛士ズ出てきます。ハイラがセクハラ気味。
そもそもな話、相談する相手を大幅に間違えてしまった気がする。
とは言え、他に誰に話せたかと言うと……、自分の人望やら名声の無さを悔やむしか無い。
額を隠してさえいれば、広間で給仕呼ばわり余裕の有様だ。
それもこれも、ことごとく御前試合には出場させず、
翌週はめっこり凹んで舞踏会どころじゃなくなっているグレオニーの所為なのだ。

……試しに御前試合に出た時は酷かったなあ……。
散々訓練場に通い続けているのだし、何しろ僕には徴の恩恵があるのだから
いかな非力な未分化とは言えフェイント無双で大抵の場面は遣り過ごせるのだ。
今でも生々しく思い出せる。
準決勝まで勝ち進んだ時の、あのグレオニーの瞳。
どうにか形だけでも応援しようという忠義が余計に痛々しく、
僕は気付けばイベントバkk

「ちょっとー、わざわざ人の訓練止めておいて何なのその態度」

ハイラが僕の目の前で手をひらひらさせながら溜息をついた。

「……訓練を止めさせるも何も、無理だろう。この雨じゃ」

ハイラの隣に控えていたフェルツが空を見上げる。
暗雲からは俄かに雷鳴すら響いている。
あ、光った。

「そこらも含めてよ、含めて。大体あんたが何か仕出かすたびにグレちゃん雨雲呼ぶんだって分かってるでしょ。
何してくれた訳」

訓練場に物凄い勢いで降り注ぐ雨粒を横目に、ハイラが肩を竦めてみせた。
まさか僕だって、こんな極端な反応が来るとは思わなかったんだ。

いつも通りの訓練場には、いつも通りのグレオニーの姿は無い。
……僕が訓練場に来る情報を掴むや否や、中庭警護に飛び出したらしい。

ローニカやサニャにもどう相談を持ちかけたら良いのか分からず、
僕は通いなれた訓練場の、見慣れた面々に事の顛末と今後の行く末を相談することにしたのだ。
何しろ、彼らの方がグレオニーと接してきた時間は僕よりも長い。
あれは本気で嫌がっているのか、それとも多少なりとも脈はあるのか、
それによって僕の今後の行動を決めるつもりでいた。

事の発端は……、ついこの間の中日。
僕は自らに蓄積されていくこの想いに耐え兼ねて、グレオニーを呼び出し……、

「「告白!?」」

ステレオサウンドで声が響く。
僕は慌てて手を振り、音量を下げるように伝えた。

「あーー、だからか。だから最近妙な動きしてたんだ」

ハイラが僕の顔を見ながらニヤニヤしている。
その妙な動きとやらは、後でじっくり聞く事にしよう。

「ええと……、で、結局断られたんですか?」

フェルツがド級ストレートに聞いてくれた。
頷きつつ、僕はちょっとだけ傷ついた。

告白はしたのだ。
顔を真っ赤に染め上げた彼の反応は、決して悪いものでなかったような気がした。
しかしながら、結論としては僕の想いは受け取れないというものだった。
そしてそれ以来、巧みに僕との対話を避け続け、今に至る、と。

ところどころ早口になるのを抑えながら、
今までの経緯を彼らに伝え、今後どう行動すべきなのかを尋ねた。

「いやー、そりゃまあ、候補者様まだ未分化だし、やっぱ足りないんじゃないの。色々」

ハイラが僕の頭からつま先までジロジロと見回す。
ちょっと、やめてください。

「ほら。グレちゃんてさー、聞いたでしょ、野郎ばっかの兄弟で育ったって。
だからなんつーの?オンナノコに過剰に夢見ちゃってるっていうかさー?」

……意外と的を射た答えを寄越してきた。
そうか、確かにグレオニーは女性に弱い。明らかに弱い。
しかしそれでは僕の成人後の話になってしまう。

何もしないまま最終日を迎えたら漏れなくグレオニーは衛士辞任EDに決まってる。
大体あいつ、友情なのか愛情なのかヘタレなのか返答の選択肢も反応もよくわかr

「聞いてんの」

ハイラが僕の頭を叩いた。
今、僕は何を考えていたんだろう。
なにこれこわい。

慌ててハイラに向き直り、助言の続きを促す。

「だからね、私思うには、やっぱりあんたには色気っつーのが足りないと思う訳よ。
結局のところ私らもほら、精気溢れる若い男ですから?色香にクラクラっときちゃうもんじゃないの」

な、なるほど。
僕の告白にはその色香ってヤツが足りなかったのだろうか。
しかし……、これでも魅力の訓練には随分励んできたつもりだったのだけど。

伝えると、ハイラがあからさまに馬鹿にしたような顔になった。

「そういうね、お高い感じのじゃダメなんですよ。
グレちゃんなんて余計に貴族出身じゃないんだからもっと庶民的に攻めないと」

庶民的に……。
それならどうにかなるだろうか。
農作業してる僕の姿に色香……、はどう考えてもないな。
それはない。

「……グレちゃんも相当と思ったけど、あんたも相当鈍いね。大丈夫?」

ハイラが僕の頭を茶化すようにポコポコ叩いた。
唸りながら俯く僕の姿を見て、ハイラがニヤリと笑った。

「しょーがないなー、んじゃハイラさんがお守りあげちゃおう。これ渡しながら2回目の告白してみ」

言いながら、ハイラが寄越したのは……何これ?
何か四角い紙包みだ。
中に何か…薄っぺらいものが入っているようなのだけど…。
今まで触った事が無い、妙な感触だ。
開けようとして、ハイラに止められた。

「ちょっとちょっと、開けちゃだめよ。雑菌入っちゃうでしょ」

余計に何のことか分からない。
ハイラに渡された紙包みを見て、顔色を変えたのはフェルツだった。

「え、ちょ、お前!何渡してるんだ!って何で持ってるんだ!?」
「やだなー、常備は紳士のたしなみってヤツでしょ?」
「こ、候補者様、それはダメです!グレオニードン引きです!こちらに!」

突然慌てだしたフェルツに面食らって、思わず手を引いてしまった。
こ、これ一体何なの、返す方が良いの?
返すべきか迷っている間に、ハイラが僕を強引に立たせ、背を押した。

「ほらほらー、迷う前に行っちゃいな。この人止めとくから」
「だ!馬鹿お前!」

響くフェルツの引き止める声に後ろ髪を引かれつつ、
僕は謎の紙包みを握らされたままグレオニーが警護に逃げ出したという中庭に向かった。

****

豪雨の降り注ぐ中庭は、さすがに出られる様相ではなく、しかしそれは警護中の衛士も同じであったらしい。
中庭に抜けられる回廊を幾つか巡った辺りで、目当ての人物の姿を認めた。
気付かれるとまた逃げられかねない。
僕は足音を忍ばせて、グレオニーの傍まで近寄った。

「うわっ!?」

僕の姿を見るや否や、悲鳴をあげた。
逃げようとする彼のマントをすかさず掴むと、どうやら振り払ってまで逃げる事はしないようだ。
一緒に居たもう一人の衛士も、僕の様子を見て何やら察したらしい。
『面倒ごとはゴメンだ』とでも言うようにそそくさと離れていった。

雲が垂れ込めたお陰で、まだ昼に差し掛かったばかりなのに辺りは薄暗い。
雨音も響き渡り、良い音消しになっているのではないだろうか。
恐らく、この機会を逃したらまた避けられまくってしまうに決まっている。
僕はマントを握る手に力を込め、グレオニーを見上げた。

この間の告白のこと。
それから、ずっと避けられているらしいこと。
そして、僕の気持ちは……変わってはいないこと。
ぽつりぽつりと呟く僕の声は、果たして彼に届いているのだろうか。

「あの……、それ、は……」

グレオニーは搾り出すような声で、言葉を探しているかのような沈黙が辺りに落ちた。
雨音が一層強くなり、薄暗い回廊を更に深い色に染めていく。

「……ですから……っ」

言葉の途中でグレオニーは深呼吸をして、僕を真っ直ぐに見据えた。
嫌な予感だ。
これじゃ前回の告白と同じ結果になってしまう。
一度目はどうにかなるとしても二度目まで同様に断られたとしたら、
……完全にもう、脈は無いと見る方が良いだろう。

グレオニーから次の言葉が出る前に、ハイラが寄越したお守りという紙包みをグレオニーの手に握らせた。

「……え、手紙、ですか……?」

紙包みの感触に、一瞬グレオニーの張りつめた空気が和らぐのを感じた。
グッジョブ。グッジョブハイラ。
が、次の瞬間、紙包みを見たグレオニーから悲鳴にも似た声が発せらた。

「レレレレレ、レハト様!?な、何もってらっしゃ、え、ど、どうしたんですかこれ!!??」

ハイラからお守りと言う名目で貰ったのだと言うと、
言葉にならない状態であわあわと僕に何やら言い募ってきた。

「いいい、意味、とか!分かってませんよね!?
いや、あの!分かってないなら良いんです、良いんですけど……っ!!!」

意味とは何だろう。
何か他の意味でもあるのだろうか。

「無い、事は無いですけど!と言うかお守りと言えなくも無いですけど!!
ってそれは別に良いんです、分かってらっしゃらないならホント良いんです!!!
良いんですからね!?」

グレオニーは、くしゃりと紙包みを握り潰すと、ぜいぜいと肩で息をしながら項垂れた。
何だかよく分からないが、僕が大変なものを渡してしまったらしい事だけは分かった。
では引き取ろうかと手を差し出すと、ぶんぶんと首を振って拒否されてしまった。

「良いですか!あの野郎ハイラ……!
金輪際、あいつからモノとか受け取っちゃダメですよ!ダメですからね!
と言うかどうしてまともに言う事聞いて貰って来ちゃったんですか!!
大体、レハト様にはご自分の立場というものが」

グレオニーが口早にあれこれ喚いている。
お守りと言うから貰ってきたのに、何で僕が怒られているのか分からない。

それもこれも、
僕の一世一代で、初めてで、緊張して、こっそり練習を重ねて
そうやってようやく搾り出した告白を断った挙句、
弁解をしようとすれば僕の姿を見るなり逃げ出して逃げ出して、
僕の言葉なんて聞こうともしなかった所為じゃないか。

ふとグレオニーの口が止まり、彼の目線が僕の目……ではない、頬の辺りをうろうろしている事に気付く。
しゃくりあげる音は、僕の咽喉から聞こえた。
指で触れてみると、僕の頬が濡れている。

「あ……」

それまでの勢いが一気に収束し、グレオニーは恐る恐るといった風情で僕の前に膝をつく。

「あの……、申し訳、ありません。その、言葉が過ぎました」

言葉が過ぎた所為じゃない、そもそもグレオニーの態度が煮え切らないからであって、
言おうとするものの、一度しゃくりあげた咽喉は息を吸っては吐くだけで精一杯で
まともな言葉なんて出てこなかった。

おずおずと頬を拭う手は大きくて、温かい。

僕は鼻をすすり上げると、彼の手を自分の頬から離す。
彼は僕が泣いてしまえば慰めてくれる。
そして大袈裟に我侭を言ってみせれば、心情はどうあれ従ってくれるのだろう。
彼の言う忠誠が、そういうものなのであれば。
僕が寵愛者だから。
彼は衛士だから。

初めてまともに握った彼の手は、僕の手よりも余程大きくて、やっぱり温かくて、
同じ位、悲しかった。

ただ僕がしゃくり上げる音だけが響く沈黙に耐えかねて彼の手を離すと、
彼から僅かに息を飲むような音がした。
視界を歪ませる涙を手の甲で拭い、彼を見やると、すくと立ち上がる。

「……あの、……えーと」

俯いたままの彼が、もごもごと口中で呟いている。
何やら、この一年色々あっただの、僕の環境も突然変わって大変だっただろうだの、
年が明けたら忙しくなるんだろうだの、
この状況で何を言い出すのかと僕はただ彼を見上げるだけだった。

と、次の瞬間、俯いていた顔を上げ、僕とまともに視線がかち合う。
一瞬怯むような素振りを見せたグレオニーは大きく深呼吸をして、腹に力を入れ……、
あ、ちょっと待って、それ何か嫌なフラグ。

「……あの、今更こんな事お願い出来るとも思っていませんし、お忙しくなるのは、重々承知しています。でも……」

会話が僕の予想とは違う方向に流れている。

「レハト様、次の御前試合、是非見にきてください。必ず、勝利をお捧げいたします」

僕は、多分きょとんとした顔をしていたと思う。
僕に言葉を挟ませる隙も無く、グレオニーは続けた。

「……前もそうやってお誘いして、無様なところお見せしましたけど。
今度は、違います。絶対に」

それだけを言うと、グレオニーは踵を返し、未だ雨脚の弱まらない中庭へと走り去って行った。

何だかよく分からないけれど、
グレオニーの瞳には僕から逃げ回っていた頃に見たものとは違う何かが宿っていた。
2度目は、上手く行ったのだろうか。

その結果を知るのは、もう少し先の話。

よくよく考えたら、こんなキッカケの成功も嫌だな。
というか、グラドネーラにもあるんだろうか。どうなんだろうか。
いえ、何がとは言いませんけど(゚з゚)~♪