夢の前日|かもかてSS

想定
◎グレオニー:愛情ルート中
◎トッズ:特に印象なしの状態
◎レハト:一人称僕/未分化
グレオニー視点です。
「ちょっと、ちょーっと見てかない。良いモンあるんだけどさー」

賑々しく人が行き交う市場の一角、
胡散臭い商品を並べ立てた胡散臭い商人に呼び止められた。
見れば、金髪に青い耳飾をつけた…どこかで見覚えがある。

「あらやだ何その目。ほらちゃんと入場許可も頂いて…って、ああ、何だ、こないだ俺を邪険にしたお堅いおにーさん」

思い出した。
正門警護の日に城内に入り込もうとしていた商人だ。
相手も俺を覚えていたらしく、わざとらしい営業スマイルを見せた。

「今日は何、巡回?」

まるで旧友に会ったかのような妙な馴れ馴れしい声が余計胡散臭い。

「いや、今日は…」
「お買い物?お買い物だったら尚更見てってよ。あの後、俺ちょっと大変だったんだからさー、ほら、これなんてどう?」

言いながら、俺の手を掴んで得体の知れない人形を乗せた。
青味がかった生地に髪の毛らしき毛糸がもさもさと頭に乗せられた左右非対称の、
正直に評するならば不細工この上ない人形だ。

「摩訶不思議な人形ちゃんでねー、これを窓辺に飾ればあら不思議。翌日は見事雨が降るという」
「あ、間に合ってます」

雨乞いならば正門警護に入るだけで事足りる。
むしろ最近は中庭巡回中も構わず雨が降り出して…もう散々だ。
その場を去ろうと踵を返すと、後ろから慌てた声が追ってきた。

「あ、あーー、ちょい待った待った。じゃこれどう!愛の人形!」

商人が手に取って見せたのは、
今度はドピンクの生地に髪の毛らしき毛糸がもさもさと…やはり不細工な人形だった。
…先ほどの人形より気味が悪い。

「この人形に愛し人の名を囁くだけであら不思議!想いが成就するっていう」

“想いが成就”…?
気付けば手に取ってしまっていた。
いや、これは…、ええと、何かの参考に。そう、参考になればと思ってだな。
微笑みを模したい製作者の願いが空回り、薄ら笑いにしか見えない人形の表情は不気味でしか無い。
…呪いの人形じゃないのか、これは。

「お、気に入った?ふーん、なるほどなるほどね」

意味ありげに含み笑いが潜んだ声に我に返り、慌てて人形を突き返す。

「あらら、お安くしときますよ」
「や、ちが、そういうので探してたんじゃ」
「良いじゃないの、若いんだし。恋せよなんちゃらってね。今ならどーんと銀3枚!」
「たかっ!?」
「高いと思うか否かはおにーさんの心意気次第と思いますけどねー?」

言葉巧みな商人に惑わされ、うっかり財布を出しそうになる。
ち、違う違う。
そもそも市場に出たのは成就祈願ではなく、返礼だ。
いつも貰い物をしている相手に礼をする為の買い物なのだと伝えると、
商人は肩をすくめて、大人しくドピンクの人形を商品群の中に戻した。

「残念だなあ。もう次は無いかもよー?
まあ、大抵の代物なら取り揃えておりますから、はいはい、座って座って」

肩をつかまれ、半ば強引に座らされる。
目の前には、菓子類から装飾品まで、これでもかと言わんばかりに雑多に並べられた商品。
…さっきの人形がこっちを見ている気がして気味が悪い。

「ええと…何が良いんだろう」
「女性相手なら無難に指輪とか髪飾りとかですかね。首飾りなら多少はサイズとか自由も利くし」
「あ、まだ未分化で」
「未分化!?そりゃまた…うん、まあ良いよ。趣味それぞれだもんね、うん」
「だ、だからそういうんじゃなくて…!お礼、お礼だって」
「んー、じゃ何が良いの。何がお好みなの、お相手さんは」

好み、と聞かれて唸り声が咽喉から出てきた。
姿をお見かけするのは大抵訓練場か、移動中の回廊位なもので…。
装飾品なんて言ったって、レハト様には衣裳係がついているのだから俺が見立てたものなんてどうしようも無いだろうし、
訓練はお好きみたいだけど、試合に出られるような素振りも無いし…。
ああ…俺、全然知らないんだな…。
唸り声の次に出てきたのは、溜息だった。

「ちょっと、人の店先で溜息やめて。うちの商品が悪いみたいじゃないの」
「いや、そういうんじゃなくて…全然分からなくて、何か、俺ホント何も知らないんだなと」
「あー、良いねえ。甘酸っぱいねえ。見てるとちょっとイラっとするけど」

語尾に聞き捨てならない台詞が混じった。

「んじゃま、ここら辺りが無難なんじゃないの」

さらりと流し、商人が俺の手に渡したのは愛らしい布包みだった。
ほわほわとした香りが鼻をくすぐる。

「匂い袋ね。ささやかで良い匂いするでしょ。枕の下に入れておくとよく眠れるのよ。
今渡すか、その子が成人してからのお楽しみにするかはお好きにどうぞ」

さりげなく何て事を言うのかと口を開きかけた時、聞きなれた声が後ろから飛び込んできた。

「あー、トッズ久しぶりー。あれ、グレオニーも居るんだ、買物?」

ぱたぱたと走り寄る姿に思わず立ち上がる。
レハト様はトッズと呼んだ商人に挨拶をすると、店先にちょこんと座り込んだ。

「何買ってたの?あ、これ何?」
「これ?レハトちゃん目が高いなあ、それは愛の人形って言って」
「うわー、清々しい程不細工。すんごい顔してるよね、ほら」

高い声で笑いながらレハト様が俺にドピンクの人形をかざしてみせる。
人形と目が合い、思わずびくりとする。
何かにやりと笑った気がする。絶対にこれ呪いの人形だ。

「あ、あの、それじゃ俺・・・・」
「もう帰っちゃうの?」
「帰っちゃうの?て、それで良かった?他にももっと大人な商品もあるんだけど」
「何それ」
「いや、そのおにーさんがプレゼント探し」

言いかけた商人の口を慌てて塞ぎ、値札にあった金額を渡す。
目に促され、もう一枚付け足すと、得心したように頷いた。
何て商人だ。

「プレゼント?何買ったの?」
「や、いや、何でも無いです!無いです!」

手元を覗き込もうとするレハト様をどうにか避けて、慌しく市場を後にした。

その夜、匂い袋を枕元に置いたままに見た夢は…酷いものだった。
ああもう…しばらくレハト様の顔まともに見られない。

トッズが居ると3倍密度で喋られて、グレオニーが喋る隙が全然無いね!(*´∀`)