落ちていた手紙|かもかてSS

想定
武勇ばっか上げてた結果がこれだよ!みたいな話。
◎グレオニー:愛情ルート・入りかけ?
◎レハト:未分化/一人称僕
文書係が走り去った後に落ちている一通の封筒。
拾い上げて目を通してみたものの…受け取り手と思われる箇所にあるものは、ただの線にしか見えない。
一つ一つの文字が独立してあれば、何とか音をあてる位は出来るようになったのだけど
綴り文字になってしまうと途端に分からなくなってしまう。

文書係が走り去った後を見てみても、姿などある訳も無く、僕はしばし封筒を持ったまま立ち尽くす。
仕分け室は何処だっただろうとキョロキョロと見回すと、見慣れた顔が廊下の角を曲がってやってくるのが見えた。
彼は僕の顔を見付けると、いつものような人懐こい笑顔になる。

「レハト様、あれ、どうされたんですか?それ」

僕の持っている封筒に気付いたらしい。

「手紙を出されるなら、わざわざご自分でお持ちにならなくても誰か」

どうやら勘違いしているらしい彼に僕は首を振る。
残念ながら、今の僕が出せる手紙に文字は入らない。
落し物を拾ったは良いものの、差出人もあて先も分からないのだと、グレオニーに拾った封筒を差し出す。
僕から受け取った封筒の宛名を見て、グレオニーが笑った。

「なら丁度良かった、俺宛です。両親からの手紙です」

じゃああのクネクネと綴られた文字はグレオニーの名前だったのかと、思わずグレオニーの手にある封筒を覗き込む。
んー…?
どれがグレオニーでサリダでルクエスなんだろう。

封筒から顔を上げ、どこらへんがグレオニーでサリダでルクエスなのかを聞くと
グレオニーは困ったような顔をしつつ、指で追ってみせる。

「ええとですね…ここからここが俺の名前で、これが副家名です。で、最後が本家名で…」

グレオニーのゴツゴツとした指が示す文字らしきものを懸命に追ってみる。

「グレオニーの名前ここまで?」
「あー、そこまで行くと俺、グレオニーサリになります」
「んー?」

副家名と本家名の間に文字ではない記号が挟まっている所は何となく見分けがついたのだけど
名前と副家名の境目がよく分からない。
再び僕が指した場所は、今度は短すぎたらしい。

「惜しい。そこだとグレオです」
「ニー居なくなった」

必死に名前と副家名を見極めようと唸る僕の頭の上から
グレオニーが押し隠しているであろう笑い声がかすかに聞こえた。

「でも、親父の字結構クセがあるんで、読みにくいと思いますよ」

そういう事は早く言うべきだと思う。
只でさえ流れるように崩された文字は僕にとっては難しすぎる。
クセがあるというなら尚更だ。

「かなり右上に曲がってますからね。読み易くするなら、こう…」

言いながら、グレオニーが宙に指で文字を書く。
書かれてもさっぱり分からない。悲しくなってきた。
何か書けるものを持っていれば良かったのだけど…。

僕は辺りを見回し、訓練場に続く廊下の脇に広がる僅かな地面に目をつけた。
グレオニーの袖を引っ張り、そこまで歩くと、しゃがみこむ。
そこらにあった小枝を拾ってグレオニーに差し出すと、僕の意図を察したのか
グレオニーも屈むようにして膝をついた。

「えーとですね…」

小枝で地面に名前を書いて貰う。
ひとつひとつ音を確かめながら書きあがる様子を見ると、
ようやく名前と文字が関係しているように見えてきた。
もう一つ転がっていた小枝を手に取り、グレオニーの書いた名前の上をなぞる。
ぐ れ お に -。
さ り だ。
る く え す。
音を確かめながら何度かなぞると、何となく分かってきた。
これが『ぐ』で、これが『れ』。
何も無い箇所で書き、グレオニーに見せると苦笑いになった。

「…あー…、それだと俺、グラオニーになりますねえ…」

んんんんーーーー?
あ、ハネが無かったのかな。
読むのと書くのとだとやっぱり何かが違うらしい。
急いで書き直してみるものの、もうグレオニーは完全に肩を震わせている。

「ねえ、じゃ僕の名前はどう書くの」
「レハト様ですか?」

僕が頷くと、グレオニーはそこにあった自分の名前を消し、僕の名前を大きく書く。
そういえば誰かに書いて貰った自分の名前を見るのは初めてで、何となく変な感じだ。

「あ、あの、でもちゃんと教師の方に書いて貰ったので練習する方が良いですよ。
俺の字、汚いんで」

グレオニーがごにょごにょと言い訳めいた事をつぶやく。
見易くて良い字だと思うけれど。
そのまま口に出すと、グレオニーは一瞬きょとんとした顔をした後、照れ隠しのように頭をガリガリとかいた。

じゃあ次は、と言いかけた時、グレオニーの後ろから呼ぶ声がした。

「グレオニー!お前何してんだ、もう交替時間過ぎてるぞ!」

声をかけられ、グレオニーが慌てて立ち上がる。

「え、あ!?あっ、あの!すみませんレハト様。俺もう行かないと!」

その声に僕も慌てて立ち上がる。
何か言いかけたものの、グレオニーは勢い良く一礼だけしてその場から走り去って行った。

グレオニーが走り去った後で、僕は再びしゃがみこんで
彼の残した文字を何度か辿りなおす。
まだ難しいかも知れないけれど、来週、再来週位になったら手紙を書く練習をしよう。
宛名には、覚えた彼の名前を書いて、
差出人には、教えてもらった僕の名前を書いて。

でも再来週の頃には、徴チートレハ様はあっさり「詩作?教えてやらんでもないよ」になってるんだ。