しろくろ|かもかてSS

想定
◎グレオニー:愛情ルート中
◎レハト:未分化/一人称僕
◎友情出演:ハイラ
※愛情脳内メーカー元ネタ
「…やっ、そこ、そこだめ、ハイラ…っ」
「何がダメなんですかねー」
「だって、そんなとこ…!」
「…目逸らしちゃダメですよ、ほーら、ちゃんと見ててクダサイ」
「…あ…、や、待って、待って」
「待ちません」

無情で軽薄な声色で、ハイラがパタパタと目の前の盤に敷き詰められた石をひっくり返していく。
あっという間に、僕の手持ちの白石が返され、盤面はほぼ真っ黒になってしまった。
空いている升目はあと2個。
…どう考えても、もうダメだ。

「あーもううう!待ってって言ったのにいいいいい」
「待てなんて聞いてたら勝負にならないでしょ、はい、私の勝ち」
「だって次そこに置きたかったんだもん!」
「知りませんよ、私だって置きたかったんですー」

言いながら、脇に置いてあった布袋から菓子を取り出して口に放り込む。

「はい、どうするの。まだ続ける?」

盤面を見ながら、声にならない声が漏れた。
うう…このまま負けてたらお菓子全部食べられてしまう。

事の発端は市場だった。
お気に入りのお菓子を置いている天幕をいつも通り覗いたものの、
売切れてしまった後だったのか、目当ての菓子包みは既に無くなっていた。
肩を落とした僕に店主が気遣って、衛士の誰かが買って行ったと教えてくれたのだ。
グレオニーだったら頼める余地がある!と算段を立てたものの
残念な事に購入主はハイラだった。

「大体、何でオセロなの。勝負方法おかしいよね!?衛士だったら、こう、剣で勝負だ!みたいな話になるんじゃないの!」

盤面を覆う黒石とハイラの顔を交互に見る。
くー…一体どこから間違えてしまったのか…。
両手を頬にあて憮然とする僕を見て、ハイラがにやにやしている。

「それこそ嫌ですよ。 食い物が絡むと容赦無くなるって、先週の鍋で知っちゃいましたから」

…だって、肉が食べたかったんだよ。
僕は育ち盛りなんだから、野菜より断然肉なんだ。
盤面から石を退けていると、ハイラが小さく声を漏らした。

「あ。あー、最後の1個になっちゃった」
「え、ちょ!」
「どっちにしろ次で最後ね。私もう飽きてきたし」
「何でよ!もうハイラ充分食べてたじゃない!最後の1個ぐらい頂戴よ!」

差し出した手に、容赦なく石が置かれた。

「じゃ、私勝ったから後攻ね」

人の話全然聞いてない。
だめだ。これもうお菓子食べられる気がしなくなってきた。
諦めきれない、と辺りを見回すと、詰所の扉を開けて入ってきた人物が一人。
僕とハイラがテーブルに向かい合っている様子を見て近付いてきた。

「レハト様、さっき市場で見かけたと思ったんですけど、こちらにいらした…」

グレオニー!助けて!もうヤだよ、このハイラ!
グレオニーの腕を掴んで強制的に椅子に座らせた。

「え、え。何ですか?」

僕はハイラの脇に置かれた布袋を指差す。
そして意地の悪いハイラが菓子を一つたりとも寄越さないと訴えかけた。

「人聞きが悪い事言わないで下さいよ。勝負だって受けたの寵愛者ちゃんでしょ」
「…1つくらい、差し上げたら良いだろ」
「グレちゃん直ぐそうやって甘やかすー」

僕は持っていた石をグレオニーの手に握らせた。
ぎょっとした顔で僕を見るグレオニーの手を両手で包むと、途端に耳まで赤くなった。
わたわたと目を逸らそうとする彼の目を真っ直ぐに見据える。

「グレオニー、お願い。勝って」

これを逃したら翌々週になってしまう。
この際、部屋に持ち帰れる程の量が無いのは諦めるとしても、ここまで引き伸ばされて一口も楽しめないなんて、悲しすぎる。
半ば涙目になっている僕を見て、グレオニーが力強く2,3度頷いた。
呆れたような溜息をついたハイラと向かい合い、グレオニーが石を置いた。

数分後。

「…グレちゃんさ…オセロのルールって知ってるよね…?」

頭を抱えたグレオニーの後ろから盤面を覗いてみると、どうすればこうなるのか疑問になる程、真っ黒に染まっていた。
…えええ…、そりゃ僕だって酷い負け方してたけど、でもこれはちょっと。
白いのが隅っこに1個て、どういう打ち方してたらここまで清々しい負け方を…。

「…申し訳アリマセン」

グレオニーから搾り出すような声が聞こえた。
僕は…、何も言えずに、ただその肩に手を置いた。
うん。いや、もう諦めもついたって…言うかね…。

最後の一つは、あっさりとハイラの口に放り込まれて、争奪戦は幕を閉じた。

ちなみにフェルツでもグレオニーでも、
「お菓子!ちょうだいちょうだい!」→「あ、じゃどうぞ」→「わあい、ありがとう!」
が成立しちゃいそうだったんで、話になりませんでした。