市場帰り|かもかてSS

想定
◎グレオニー:愛情ルート中
◎レハト:未分化/一人称僕
レハト視点。 嫉妬してみたかった。
いつも通り額に布を巻きつけて向かうのは市場だ。
中庭に向かうほど、廊下は人通りが多くなる。
物見で出てきている貴族達、品物の補充に勤しむ商人達。
城の外には出られない僕にとって、外の匂いを感じられる稀少な日でもある。

およそ店の並びも覚えてきた。
あの薄い緑色の天幕が張られた店は香辛料や乾物を売っていて、
隣の橙色の天幕の店には鉱物と鉱物をあしらった飾り物がある。
僕のお目当ての店は、その奥だ。

目当ての天幕を覗き込むと店主と目が合う。
もう何度も通ったものだから、すっかり顔なじみになってしまった。
店主は僕の顔を見ると、心得ておりますとでも言うように腰を上げ、手袋を取る。
いつもならそのまま寄越す手袋を、今日は袋に詰めてくれるらしい。
僕に手渡されたのは、…赤い紐が蝶々結びされた見るからに愛らしい布袋。
こんなに可愛くされても。
首を傾げる僕を見て、店主がにやりと笑った。

「お目当ての方が早く気付いて下さるようにってね」

なっ。
僕が口を挟む隙も無く、
他の客達にも押されて、辛うじて代金を支払った辺りでさっさと店の前から追いやられてしまった。

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受け取った布袋を見ながら、とりあえず訓練場へ向かう事にする。
こんなにあからさまにされても…有り難いけど、余計に恥ずかしい気がする。
そもそもこういう機微に、グレオニーが気付く性質じゃないとは思うけど。

中庭から回廊を抜けて訓練場が見える頃、聞き慣れた声が飛び込んできた。
とは言え、変声前の声の持ち主なんて僕かヴァイルしか居ない。
予想通り、訓練場に居たのはヴァイルと…グレオニー?

「うわーー、良いなあ良いなあ」

ヴァイルのはしゃぐ声。
それは良いんだけど…何でグレオニー上半身脱いでるの。
見れば首からタオルがかけられ、どうやら訓練上がりをヴァイルに捕まってしまったらしい。
…ヴァイル、筋肉好きだからね…。

「豆以外でも筋肉つく?」
「つ、つくとは思いますけど…あの、服着て良いスか…」

片手に持ったままの服をちらちら見ながらグレオニーが困惑している。
ヴァイルは気にせず、と言うよりも、初めからグレオニーの表情は見えていないのか
グレオニーの腕を両手でがしりと掴み、太さを確かめるように握っては離している。
どうしよう、とりあえず困っているのなら…、と歩みかけ、

「良いなあ・・・あんた身長もあるし、ムダが無いよね。うん、何かちゃんと実践で付いたって感じがして良い」
「え、そ、そうですか?」

…グレオニーの表情がぱっと明るくなる。

「俺全然つかないんだけどなー、やっぱ成人しないと無理かなあ」
「成人前はつきにくいですね。でもヴァイル様は骨格がしっかりしてらっしゃるから、背も伸びるでしょうし」

ヴァイルの問いかけに一つ一つ答える顔から困惑の表情が完全に消えた。
ヴァイルは今度はグレオニーの胸の辺りに手を伸ばしてペタペタ触っている。
時折力入れてーとせがんでは…グレオニーも律儀にそれに応えている。
…何か嬉しそうな顔をしているのが…イラっとした。

僕は鼻から息を出し、二人に近付く。

「あ、レハト様、訓練ですか?」

いち早く僕に気付いたグレオニーが声をかける。
何、そのやに下がったような顔。
ヴァイルが僕の方を振り返って手招きをした。

「レハトも来て来て。良いよなー、俺成人したら絶対男になって、」

言いかけたヴァイルの袖を掴み、そのままグレオニーから離す。

「どうしたのレハト?何かあった?」
「屋上、見に行きたい、からヴァイル付き合って」
「屋上?ああ、鍵かかってた?」

別に屋上じゃなくても良いのだけど、とりあえず、この場にはあんまり居たくない。
グレオニーをちらりと見ると、また困ったような顔をしていた。
もう良い。今日はもう顔見たくない。

「そーいえば市場上から見るのって初めてかも。いこっか」

あっさりとグレオニーを放って、ヴァイルがくるりと踵を返す。
手を繋ぎかけて、ヴァイルが僕の手元をまじまじと見た。

「レハト、何それ?」

ヴァイルに言われて、僕は持っていた布袋の事を思い出す。
せっかく蝶々結びまでしてくれてたのに。
どれが一番上等な手袋なのか、色々見回って見付けたお店なのに。
…思い返せば返すほど、腹が立ってきた。

僕は持っていた袋をグレオニーの顔面に投げ付けた。
袋は見事に命中し、落ちかけた袋をグレオニーが慌てて受け止める。

「レ、レハト様?あの、何か怒って…?」

わたわたとするグレオニーを一瞥する。
…もし彼の頭に耳が生えてたら、多分ぺったり下がってただろうと思う。

「怒ってない。さっさと服着たら」

自分でも驚く位、低い声が出た。
グレオニーは何か言いたげな様子だったけど、
僕はそのまま彼に背を向けてしまったのでそれ以上の表情は分からない。

翌日は酷い土砂降りになった。
少し位、悩めば良いんだ。
僕が散々市場で悩んでいた時間分くらいは。

グレオ関連だと、とりあえず雨が降る。
感情の起伏で雲を呼ぶんじゃないか、あの男は。