あまいもの|かもかてSS

想定
◎グレオニー:愛情ルート
◎レハト:一人称僕/未分化
レハト視点です。 
「レハト様、お手の水気はしっかり拭いて下さいませ」
「あらあら、焦らなくて宜しいんですのよ」
「今日の飾りは、砂糖漬けの果物でよろしいでございますか?」
「砂糖細工はいかがかしら。この間買いましたの、宝石みたいな色ですのよ。持ってこさせますわね」くるくると器用に動き回る二人に囲まれて、僕はすでに目が回りそうだ。
確か焼きたてのケーキを食べないかとユリリエに誘われたんだ。
でも自分が焼く羽目になるなんて思わなかった。「あ、ユリリエ様、お袖が汚れてしまいます!混ぜるのはサニャが致しますから」

言い出しっぺのユリリエは手慣れた様子で金銀のボウルに手を伸ばす。
気持ち袖まくりをしているが、余り効果は無さそうだ。
ユリリエは袖をぐいと上げると、やんわりと微笑んだ。

「この時ばかりは飾りが疎ましいですわね」

再び、まるで見えない糸でも辿るかのような正確さで混ぜ合わす。
……うーん、僕には何がどうなってお菓子になるのか全然分からない。
サニャに言われるままに粉を振るい、ユリリエに言われるままに何やらかき混ぜる。
遠くから、料理係がもどかしそうな目で見ている。
うう、僕だって出来れば代わって欲しいくらいだ。
そ、そんなジェスチャーで言われても分からないよ……!
え、もっと早く?違うの?あああ、ごめんなさい、察せなくてごめんなさい。

結局自分が何の役に立っていたのか分からないまま、
混ぜ合わされた生地はオーブンに入ったようだ。
何だかひどく疲れた気がする。
僕の様子に気付いたのか、ユリリエが少し意地悪な顔をして笑った。

「お菓子づくりの真髄はココからですのよ。デコレーションこそ最も細やかな技術が必要なのですから」

……うへえ……。
明らかに眉を下げた僕に、サニャが慌ててフォローを入れてくれた。

「大丈夫でございますよ!味が良くなくても綺麗なお菓子は美味しそうに見えますです!」

うん、全然フォローになってないんだけど、気持ちが嬉しいよ……。

焼き上がるまではまだ時間がかかるようだ。
二人はよくこうやって過ごしているんだろうか。

「たまに、でございますのよ。なかなか厨房を独占させては貰えませんの。
今日はレハト様がいらっしゃって良かったですわ」

サニャが後ろで頷いている。
やっと思惑が分かり、僕は肩を竦めてみせた。

「でもねレハト様、お菓子づくりの一つ位は習得をお勧め致します事よ」

これまでを思い出す限り、習得への道は険しそうだ。

「あら、腕前はどうだって良いんですわ。単純に美味しいものなら、料理係が作ってしまいますもの」

それよりね、とユリリエが座った椅子を僕に近付ける。
つられてサニャも顔を寄せた。

「大事なのは、誰かのために作る事ですのよ。想うこと、祈ること、慮ること。
およそ恋に必要な要素は全てあると、お思いにならなくて?」

ユリリエが微笑んだ。

やがて生地が焼き上がり、そのふっくらとして湯気が上る姿を堪能する間もなく
ユリリエとサニャがてきぱきとクリームを乗せていく。
僕は、といえば、ユリリエが買ったという砂糖菓子を適当に乗せるだけだ。
やってみますか?とサニャがボウルとパレットナイフを差し出してくれたのだが、全力で遠慮しておいた。
ナイフでそのままケーキを切ってしまいそうだ。

真っ白いクリームで彩られ、……砂糖菓子がほんの少し不均等に乗せられ、ケーキは完成したようだ。

あの粉やら卵やらミルクから、こんなに綺麗な物が出来るのってすごい。
僕は出来上がりを見て、思わず溜息を漏らした。
上出来だとユリリエも満足気だ。

さて、出来上がったのだし、いよいよ食べられるのかと思うものの、どうやらそうではないらしい。
ユリリエとサニャは目配せをしあい、サニャだけが奥に行ってしまった。
部屋で食べるのだろうか。
ぱたぱたと戻ってきたサニャの手には、バスケットがある。

「レハト様、ケーキ作りは初めてでいらっしゃったみたいだから、」

ユリリエがケーキを切り分ける。
……何か、ずいぶん大きい。
確かに僕、甘いものは好きだけど、この大きさは一人じゃ食べきれそうにない。
ローニカは勧めれば食べてくれると思うけど、
あんまり甘いの食べてるトコ見た事無いな。

豪快に切り分けたケーキが、バスケットに綺麗におさめられる。
そしてそのバスケットは、ずい、と僕の方に寄越された。

「初めての味は、大切な方と共有されるべきですわ」

一瞬、何を言われているのか分からなかったが
その意味を理解して、僕は慌てて首を振った。
え、だってこれ。

「あら、あの衛士さんは甘いものお嫌い?」

いやいや、そういう事じゃないけど。

「以前お見かけ致しましたけれど、レハト様がお勧めなさるなら、毒物だって喜んで頬張ると思いますわよ」

うん、それは多分そうなんだけど。
受け取ろうとしない僕に、サニャがユリリエの後ろから援護をする。

「訓練上がりは、甘い物があるほうが良いと聞いた事がございます。
ほら、訓練、終わる頃でございますし!ちょうど作り終えられて良かっ……」

そこまで言って慌てて口を押さえる。
ユリリエが困ったような顔をして笑いながらサニャを肘で小突いた。
……どうやら計画済だったようだ。

「さ、早くしないとお会い出来ませんわよ」

ずっしりとしたバスケットを持たされ、広間からも追い出されてしまった。

ユリリエの言う通り、訓練場では既に片付けが始まっている。
中に見慣れた顔を見付けて手を振った。
グレオニーは一言二言、隣の衛士と話をすると、こちらに走ってきた。

「どうされたんですか?すみません、もう訓練は終いなので、もし訓練ならまた明日……」

ふと、僕の持っているバスケットに気付いて首を傾げた。

「もしかしてお出かけなさるんですか?あ、それともお帰りなのでしょうか」

僕は何と答えて良いのやら迷ったものの、少し抜け出せないかと伝える。
グレオニーは首を傾げたまま、詰所まで戻る。
何やら話し込んだ様子の後、再びこちらに戻ってきた。
片付けは大丈夫なのかと聞くと、どうやら代わって貰ったらしい。
いつもグレオニーとつるんでいる衛士が『さっさと行け』と言うように手を振るのが見えた。

……さて、抜け出して貰ったのは良いけれど、どうしよう。
広間…はダメだろうな。あの二人にまた追い返されそうだ。
僕はとりあえず中庭を目指す事にした。
グレオニーは変わらず怪訝な表情を浮かべながら僕について歩いた。

中庭につき、空いていたベンチに腰掛ける。
中身が崩れていない事を確認して、少しだけ息を吐く。
慣れないものを持ち歩くのは…疲れる。
僕の息を吐いた音が溜息に聞こえたのか、グレオニーがおずおずと声をかけてきた。

「あ、あの、どうされたんですか?何か俺、失礼な事でも……?」

僕は慌てて首を振ると、グレオニーにも隣へ座るように促す。
一瞬緊張した様子を見せたものの、少し嬉しそうな顔でグレオニーが隣へ腰掛けた。
……バスケットの中身を見回してみるものの、食器が一人分しか無い。
これは、わざとなのか、単純にサニャのうっかりなのか判じかねる。
……でも、多分わざとだな。ユリリエならわざと抜く。

隣に座ったグレオニーに、甘い物は好きか聞いてみる。
グレオニーは首を傾げたまま、食べられない事は無い、的な答えを寄越す。
これ、いっそ土豚の姿焼きとかの方が喜んで貰えたんじゃないだろうか。
バスケットの中身に目を落としたまま、どうしようかと考える。

「あれ、ケーキですか?お部屋で召し上がるなら、早く持ち帰られる方が良いんじゃ」

加えてこの鈍さだ。
とは言え…折角初めて作ったのだし、食べさせないまま戻ったらユリリエとサニャに何て言われるか。
僕は深呼吸をして、1本しか無いフォークでケーキを掬う。
そしてそのままグレオニーの目の前に差し出した。

……あー……、そりゃ分からないよね。
ええと、その。

「え、あ、手作り、なんですか?」

僕は小さく頷く。
初めて作った事と…グレオニーに食べさせようと思って持ってきたのだと。
途端にグレオニーの頬が染まる。

「あ……あ、ああありがとうございます。
え、で……その、これ、は」

しどろもどろになりながら、目の前に差し出されたフォークを指差す。
……だって、1本しか無いんだもの。
でも苦手なら、無理して食べなくても、

「いやいやいやいや!!そんな事は!決して!微塵も!!!」

物凄い力強さと勢いで否定された。
グレオニーは周囲をきょろきょろと見回すと、耳を赤くしたまま向き直った。

「あ、あの。良いんでしょうか?その、頂いても」

その為に持ってきたんだ。
僕は頷くと、グレオニーの口元にフォークを寄せる。
グレオニーはしばし迷った後、大人しくフォークからケーキを食べた。
大仰に噛んでいる姿が、少し可愛い。

美味しいかと聞くと、何度も頷いてくれた。
その姿を見て、やっと安心出来た。
そういえば、折角作ったのに結局僕は食べないままだったな。
隣で食むグレオニーを見ながら、今度は自分で食べてみる。
さすがに料理係が作るようなケーキとまでは行かないけど、
自分で作った(と言うよりも自分『も』作った、という程度だけど)という思い入れがある分、すごく親しみが湧く味だ。

もう一度掬って、グレオニーにフォークを向ける。
……何で凝固してるんだろう。

「……え、あの。レハト様、もしかしてフォーク、一つしか?」

僕は頷く。
何度見ても、フォークは増えてない。

「……や、いや、俺は、俺は良いんですけど、ていうか、気にされてないなら、その」

もごもごと口の中で何か呟いている。
もしかして、同じフォーク使っているのを気にしているんだろうか。
鈍いんだか何なんだか、たまにホントに分からない。
僕は少しだけ苦笑いをして、もう一度ずいとフォークを差し出した。

観念をしたのか、妙に真剣な面持ちでケーキを頬張る。
僕の顔を見て、照れくさそうに笑った。
つられて、僕も笑う。

あんなにあったケーキは、いつの間にか無くなっていた。
……その殆どは、グレオニーの胃の中なのだけど。
また作ろうかと言うと、嬉しそうな顔で頷いてくれた。

ちゃんとユリリエとサニャにお礼を言おう。
それで、今度は一人だけで作れるように、教えて貰おう。
軽くなったバスケットを持ちながら、広間に戻った。

後日談というか、ほぼリアルタイム実況。

「ほらほら。わたくしの言う通り、フォーク1本で大丈夫でしたでしょ?」
「さすがユリリエ様でございますです」
「お二人とも鈍くてらっしゃいますものねえ…」
「サニャから見てもバレバレですのに、レハト様バレてないとでも思ってらっしゃるんでしょうか」
「だからこそ、ちょっかい出してやりたくなるんですわね」
「あ、でもグレオニーさん顔赤いです」
「あら、それくらいの感度はございますのね」

女子組に私も混じってキャッキャしたい。