恵みの雨(グレオニーver)|かもかてSS

想定
◎グレオニー:護衛ルート中
◎レハト:一人称僕/未分化
グレオニー視点です。
正直な話、護衛舐めてた。
剣術の心得だけならまだどうにか出来そうな気もしていたのに
まさか礼節やら法律やら、そんな勉強が必要だなんて知らなかった。
これまで全く勉強してこなかったツケを感じながらも、今はとにかく、詰め込めるだけ詰め込むしかない。何しろ、時間が無い。

今はまだ護衛と言っても見習いだ。
レハト様が成人の儀と篭りを終えられたら、公式の任命式がある。
それまでの試験を、まず通過しなければならない。
今回みたいにリリアノ様やレハト様の温情に頼ってばかりはいられない。
自分の力で受からなければ、俺はもうお傍に居られない。

さすがに……レハト様の姿を見られる時間すら減ってしまっているのは辛い。
辛いけど、日に日に綺麗になっていく姿を見ている分、焦りも出る。
ああ……成人して、もし女性なんて選んじゃったら…、絶対そこかしこの貴族どもから言い寄られるんだ。
レハト様鈍いから、裏の思惑なんて気付かずにほいほいついてって…
だめだ。想像しただけで羽筆折る。

いつものように図書室で本をまとめ借りする。
文官のモゼーラさんも、次はこれが良いあれが良いと教えてくれるのが有り難い。
……ただ、その量が半端じゃないんだよな…。
ワガママ言ってる場合じゃないか。
両手に本を抱えて持ち帰り、部屋で一冊ずつ広げる。

えーと…分裂戦役の頃か。
良かった、これなら多少衛士訓練で習った覚えがある。

……。

…………。

あ、いかん。寝てた。
頬を両手で打ち、再び本と向かい合うものの…根本的に向いてないのか
すぐさま瞼がおりてくる。
いっそ……訓練場でちょっと目を覚ましてこようか。

そう言えば、初めてレハト様と会ったのも訓練場だったんだよな。
そもそも王城に子どもが居るって事の意味を考えれば、
それが誰なのかなんて想像もつきそうなもんだったのに。
でも笑って許してくれたんだよなあ。
……可愛かったよなあ、レハト様。
いや、もちろん今でも可愛いけど。すごい可愛いけど。
可愛いっつーか、綺麗だけど。

違う!!

分裂戦役分裂戦役…。

あれ。何で俺訓練場に居るんだろう。
ああ、眠いから目覚ましに来たんだっけ…。
そうだったっけ?
まあ良いや。剣術の訓練もしとかないと鈍るもんな。

あ、レハト様。何してらっしゃるんですか?
いえいえ!お邪魔なんかじゃないです!
喜んで一緒に訓練させて頂きます!
あー……剣持ってるレハト様も可愛いなあ。
ああ、その型はそうじゃなくてですね。
あー……真剣な表情もすげー可愛い。どうしようもうホント。

ふと、頭の辺りが揺れて顔を上げる。
あれ……あ、部屋にいる。
そうか、そうだよな、勉強してたんだったな。
何だ、じゃ今の夢なのか……。

……あれ。レハト様?
ん?じゃ俺まだ夢見てるのかな。
あー……何かちゃんとお顔を見られるのも久しぶりで…夢だとしてもやっぱり嬉しい。

思わず腕を掴み、そのまま引き寄せた。
そのままあっさりと手中に収まったレハト様をそのまま抱き締める。
なんだこれ、すごく、すごく幸せな夢だ。
前にも何か、こういう夢見た事あったっけなあ…。

腕の中の感覚は、妙にリアルで、
少し力を込めれば折れてしまいそうな華奢な感覚がある。
髪の毛から微かに香る甘い匂いに、クラクラしそうだ。
滲むような体温が、心地良い。
服の上からでも背骨を辿れそうだ。
こんな細い体で、よく訓練とか衛士相手にまともに出来てるもんだよな。
そうそう、だから俺が護衛になってちゃんと護って差し上げないと。
護衛に……。

……。

え、ちょ。
違う違う、だから俺勉強してるんだって。
部屋に戻って、試験に向けて勉強をしてたんだ。

意識がハッキリして、急いで体を離した。
レハト様はきょとんとした顔をして俺を見てる。
周囲を見回せば、ここは紛れもなく俺の部屋で、
机の上にはさっきまで開いていたページがそのままになってる。

「れ、レハト様っ!?え、あ、本物!?ちょ、え、すみません、俺寝ぼけてて……!!」

慌てて手を離す。
うわ、俺なんつー寝惚けた事を……!!

「すみませんすみません!!な、何か……すごい良い匂いするなって思ったんですが……あ、いや、何言ってんですかね」

そうそう、すごい良い匂いがして……バカか俺は!
そうじゃない!そうじゃなくて!!

所在の無くなった手で頭をがりがりかく。
随分寝こけていたのか、所々はねているのが分かる。
ああ…何かすごい格好悪い所見られた上に、本当…何しでかしてんだ…。
突然に、レハト様の手が俺に伸びてきて、驚いて飛びのいてしまった。
椅子の倒れる音が響く。

レハト様が片手を浮かしながら俺を見る。
表情が、わずかに曇った。

ああああ、すみませんすみません!
ちょっとこう、驚いて、いや、嫌じゃないです!嫌じゃないんです!

レハト様が無言で、平謝りする俺と椅子を交互に見る。
あ、あの、もう一度座れって事でしょうか……。
転がった椅子を起こし、大人しく座る事にする。
最近、リリアノ様の元に通っているらしいレハト様は…時折目で命令するのを感じる。

怒られるのかと思った俺の思惑とは裏腹に、
レハト様の手は優しく俺の髪を撫で始めた。
梳かすように、ゆっくりと。
髪の毛越しでも、細い指だと分かる。

「……あの、レハト様?」
何だか随分長いこと髪を撫でられているのは……こそばゆくて落ち着かない。
俺が声をかけると、髪を撫でていた手が、今度は俺の頬にあてられた。
また飛びのきそうになる体を抑え、何とか座り続ける。
ええと……これは……。

レハト様の顔は、物思いに沈んでいるようにも見えた。
俺の声は、聞こえていないのだろうか。
長い睫毛に見惚れかけながらも、今はその……少し悲しげな顔の方が気になる。

触れられていた手に、自分の手を重ねる。
一瞬、レハト様の肩が震えた。

「……何か、あったんですか?」
手を降ろし、両手で握る。
本当に。本当に、細くて、小さな手だ。
お顔を見れば、額で僅かに光るように滲むのは徴。

「何かあったなら…いや、話してくれなんて言うつもり無いですけど、
でも、お力になりたいって、いつも思ってますから。
俺、その為に、貴方のお傍に居るんです」

俺、今うまく笑えているだろうか。
本当なら、もっかい、思いっきり抱き締めてしまいたい位なのだけど。
正面から見るレハト様の顔が、…何か少し赤い気がするのは。
じっくり見る間もなく、レハト様の手が俺の手からすり抜けた。
あ、あれ……。

レハト様は口早に、本の事を告げる。
え、本?俺が机に目を向け、もう一度振り返った時には既に姿無かった。
部屋の外を、軽い足音が遠ざかる。

慌てて立ち上がるものの、追いかける訳にも…いかないよな…。

もう一度座りなおして、レハト様の表情を思い返す。
沈んだ顔だって、やっぱり綺麗なんだ。
綺麗だけど、見ているのは俺の方が辛い。

……母御を亡くして、直ぐにこの城に来たのだと聞いた。
悲しみに暮れる間もなく、突然王になるかを問われる生活に放り込まれた。
好奇だらけの、この城から出る事も叶わずに。

やっぱりダメだ。
俺、ちゃんとお近くに居られるようにしなきゃ、ダメだ。
あんなに小さな体で、何もかも受け止めようなんて、そんなの無謀だ。
俺にだって分かる。

両手で頬を再び叩き、目の前の本と向かい合う。
ふと気付けば、窓の外には…もう見慣れた雨。
ぱらぱらと窓を叩く音がし出した。

数冊広げた本から、アネキウス様の絵姿がちらりと見える。
翼を広げた、男でも女でも無い姿。
わずかに伏せられた目。
レハト様の顔が重なる。

アネキウス様、
俺の道は、あの細くて気丈な主様に続いていますか。

ヘタレオニーが時折見せる漢ラシオニーの姿に中の人がキュンキュンしてます。